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an answering phone



『もしもし流歌(るか)です』
『もしもし流歌?ああやっと…』
あたしがそこまで言うと流歌の方はまだ言葉を続けた。
『今電話に出る事ができません。御名前とメッセージを残して下さい』
流歌の声が終わり機械的な女の人の声が響く。
『留守番電話サービスセンターに接続します』
あたしは何も言わないでただ脱力してケータイを床に置く。
ピーッと機械音がケータイから聞こえる。まだ繋がったまんまだ。
留守番電話の声と本当の声が区別できなくなって来てる自分が信じられなかった。
パタンとケータイを閉じてボーッとする。
今日で電話が繋がらなくなって何日目だろ。そんなことを考える。
最初の方はあんまり何も考えてなくて
だんだん日が経つに連れて不安になって、
涙が溢れるように流れる日々が続いて
今は、もうただ呆然としてるだけだった。
[こころちゃん、こころちゃん笑ってよ。じゃないと幸せが逃げちゃうよ?]
あんたがそう言ったからあたしは素直に笑えたのに
[僕こころちゃんの笑顔好きなんだぁ。ほっとするんだ。]
なんであんたがあたしから笑顔を奪うの。
やっぱ言わなきゃよかった。好きだなんて言わなきゃよかった。
こんな気持ちなんて封印しとけばよかった。
じゃなきゃこんな風にならなかったのに…。
もう1回流歌に電話する。
『もしもし流歌です。今電話に出る事ができません御名前とメッセージを残して下さい』
その少し後に機械の声が聞こえる。
『留守番電話サービスセンターに接続します』
ピーっと機械音が響く。
すぅ、と息を吸うできるだけ明るい声を出すように頑張る。
『もしもし流歌?こころです。どうしたの?最近会ってないねー。
なんか寂しいよー流歌がいないと。
あっもしかしてあんたあたしが告ったから気まずいとか思ってるの?
もしかして流歌さんあれ本気だと思った??
もーあれ冗談なんだから気にしないでよー。
じゃぁこれ聞いたら電話かメールちょーだいねっ
ばいばーいこころでしたぁ!!』
ぶつっと電話を切って少しの間動けなかった。
気が緩んでばたりとベッドに倒れる。
さっきまで暑かったのが嘘みたいに夏の夕方は涼しくて
あたしは夕方独特のポカポカした空気に包まれてそのまま
夜御飯を作る事も忘れて目を閉じてそのまま寝てしまった。

お昼寝から起きるともう7時で
1人暮らしのあたしに夜御飯を作ってくれるお母さんがいるわけがなくて
あたしはまだ夢のなかにいる頭を叩き起こして夜御飯を作る事にする。
お蕎麦を茹でる為のお湯を沸かしてる間
お箸とおわんをテーブルに並べて
むしむし締め切った窓をガラリと開ける。
みーんみーんと元気になく虫の声を聞いた後
4人家族だったあたしにとって1人は寂しいからCDを付けて紛らわす。
お湯がそろそろ沸けてるか見に行こうと思った時
ベッドの近くの床に置いてあるケータイが目に入って電話を取りに行く。
「あ・・留守電じゃん。」
わざと声に出してケータイを耳に当てる。
『留守番電話サービスセンターに接続します。』
ピーーーー。
『もしもしこころちゃん?』
ケータイを落っことしそうになった。
『流歌です。ごめん。なかなか電話できなくって。
話したい事があるんだけどいい?これ聞いたら電話下さい。』
ブツッと切れた音がして機械の音が流れる
『8月4日午後6・・』
あたしは全部聞かないで電話を切って台所に向いながら流歌に電話した。
『もしもし流歌ー??どうしたの?久しぶりじゃん。元気??』
『元気だよー。
今さー僕こころちゃんのアパートの近くのコンビニにいるんだけど
こころちゃん家行っていい??』
『あー。いいけどさーうち今日お蕎麦でほか何も考えてないんだけど。
それでもいいならあたしは全然大丈夫。』
『御言葉に甘えてって言うのも変だけど御邪魔させてもらいます。
じゃぁあと10分ぐらいしたら着くよバイバイ。』
少しの間耳から電話を外す事ができなくて
はっと我に返った時にはぐつぐつとお湯は十分に湧けてた。
タイマーでお蕎麦を茹でてる間を計って、
お箸とおわんとランチョンマットをもう1個ずつ増す。
ケータイを充電させて時計を見る。
ピピピピーータイマーがこんなに暑い夏の夜でも元気に自己主張するのを
急ぎながら聞いてお鍋の下にざるを用意してザアアっとお湯を流す。
2、3回お湯を切って2枚用意してあったお皿の上にお蕎麦を移す。
ピーンポーン、正に最高のタイミングで流歌が家に来た。
あたしは急いで玄関の方に回って笑顔でドアを開ける。
「いらっしゃーいっ!!ほんとすごいいいタイミングで来たね。
今お蕎麦出来たとこ。さっ上がって上がって。」
「こころちゃんこれ御土産のアイス。」
あたしは御礼を言いながら受け取った後冷凍庫に入れて
さっき取り分けたお蕎麦とキンキンに冷やしてあった烏龍茶と
お蕎麦の露と氷が入ったコップをテーブルの上に持って行ってもう先に席に付いてる流歌の前に置く。
少しだけCDプレイヤーのボリュームを下げて
「じゃぁ頂きますか。」
にっこりと笑ってあたし達は食べ始める。

「今までどこ行ってたの?」
「僕?家に帰ってたよ。」
「だから電話が繋がらなかったんだ。流歌の家、田舎だもんね。」
「まさか未だに圏外の所があるとは僕も思わなかったよ。」
「あはは。そりゃぁね。いつ帰って来たの?」
「今日だよ。」
「じゃぁ寮でゆっくりしてればよかったのに。」
「だってこころちゃんに会いたかったから。」
あたしは不意打ちをされた気がした。
とっさの事で顔の火照りが隠せない。
「もー流歌はそんな悪い冗談を…。さっそろそろアイス食べよっか。」
立ち上がるあたしの手首を流歌が掴む。
「本当だよ。こころちゃんに会いたかったんだ。
今日帰って来て、こころちゃんからメールで告白されて
すごく嬉しかったよ。けどそのあとすぐ留守電聞いてびっくりした。」
流歌は言葉を切った。まっすぐと彼の血の由縁で赤い瞳であたしを見る。
「こころちゃん。僕こころちゃんのことが好きだよ。」
にっこりと流歌らしい素直さで笑う。
「あれは・・冗談だったの?」
あたしはゆっくりと首を振った。
「好き。」
「よかった…。」
1つ下なのに流歌はあたしの身長を越してた。
ぎゅーっと子供がお気に入りのぬいぐるみを抱しめる原理であたしを抱しめる。
「よかった…」
もう1度ほっとした声で繰り返した。
「流歌・・」
ぽかぽかとしてきた流歌の腕の中であたしは頭に浮かんだ疑問を聞いてみた。
「何ー?」
「あんた何週間家に帰ってたの?」
「え2週間だよ。その間にあんなことが起きてるなんて思わなかったよ」
2週間、日にちにしても14日それしか経ってなかったのに
あんたはあたしの日常を意図も簡単に崩して
流歌中心にぐるぐる回る生活を作ってしまった。
「…うるさい。」
ふいっとあたしはそっぽを向く。
「え・・?何が?」
なんだかそれが悔しいような嬉しいような
「なんでもない。」
照れるような複雑な心境で流歌をぎゅうと抱しめる。