そう、その冬の日には冷たい雨が降っていて
神野(かんの) 朔夜(さくや)はただなんとなく濡れた都会を歩いていた。
「都会に雨っつぅのも乙なもんだな。」
彼にしては珍しく独り言を言う。
黒い傘をさしながら灰色な狭苦しい空見上げる
この調子じゃ明日もこんなんだな。そう思いながら呑気に歩く。
空を埋め尽くす高い高いビルの1つが彼の住んでるマンションで
買い物袋やカバンなど持たずに歩いてた彼は
傘が有ることも気にせずポケットから鍵を取り出す。
目をあげると、
「…?…!?」
黒い傘が灰色の空を飛んだ。

…………ここ、どこよ。
真っ黒のシーツ、真っ黒の掛け布団に囲まれてあたしは目が覚めた。
「起きたか?」
深くて柔らかい男の、声。
「!?」
「あー…頭ん中で色んな事が駆け巡ってると思うけど、まぁ落ち着けよ」
「落ち着いてられないわよ!ってかあんた誰よ!?10秒以内に答えないと警察呼ぶわよ!?」
そいつはあたしを一瞬目で捕らえた後すぐに離した。
「神野朔夜。あんたは?」
「…幸田(こうだ) 美姫(みき)。で、あたしは誘拐されたの?」
一瞬沈黙が空く。
「おい、ココアあるけど紅茶にするか。」
「…話し聞けよ」
それでも無視して自分の話を続ける。
「紅茶?」
「ココア。」
「わかった紅茶な。」
意地悪に小さく笑む。
「じゃぁ聞くな!!」
よくわからない誘拐犯はあたしのことを放置したままキッチンに姿を消した。
あたしはわけがわからなくて真黒な枕を抱しめて目を閉じて
もう一度辻褄よく考えようとした。
けどやっと自分がさっきまで何をしてたか、を思い出せないことに気付く。

「記憶喪失?」
「そーみたい。もーどうしよ…・。最悪特に大切なことはなかったと思うんだけど…」
手渡されたマグカップにはホットココアが入ってた。
「…ドラマとかでありがちだよな。記憶喪失って。」
「悪かったわねありがちな女で。」

「なぁ。」
返事しないでココアに口を付ける。
「なんで自分がここにいるのか聞かないわけ?」
「誘拐犯じゃないって事が分かればもういいの。」
「ああそう。」
沈黙が流れる。

「ねぇ」
「ん?」
朔夜は紅茶のカップを両手で包む
「お互い質問を5つ聞き合わない?」
「俺嘘ばっか吐くから信用できないけどいいの?」
「嘘は常に真実が混ざってるって誰かが言ってたわよ。」
じぃ、と彼があたしを見る。

「じゃぁ質問1あなたは何歳?」
…17歳。
「質問2誕生日は?」
8月21日。
「なんだ4月生まれかと思った。」
花なんて似合うかよ。

「質問3好きな子はいるの?」
いる。
「質問4じゃぁ彼女は?」
いる。
「…じゃぁ彼女さん焼き餅やかないの?」
「それは最後の質問なわけ?」
「違うわ。」
じゃぁ秘密。
「意地悪。」
それがルールだろ。
「…質問5一人暮らしで寂しくない?」
全然。快適無敵。
…………
シレッとそんな風に言う朔夜が少し不安になった。
「寂しいの?」
「じゃぁ俺のターンな。」
朔夜は聞いてるくせして普通にシカトする。
「1幸田は何歳?」
17歳
「2好きな食べ物は?」
…ラザニア、パスタ。とか
「イタリアンって言えよ」
「うるさいわ。」
「じゃぁ質問3好きな花は?」
バラ。
「4誕生日は?」
知らない。
「5ここで同居するつもり?」
だって家がわからないもの。


長い間朔夜は黙ってた。
思い出したように立ち上がって聞く。
「腹減ってない?」
「大丈夫。」
また、間が空く。
「御休み。」
「何で?」
大きな手の平があたしの額を触る。
「熱、出てる。」
小さく笑って優しく言った。
「御休み。」
大人しくあたしも返した。
「御休みなさい」

何か、怖い夢を見て目が覚めた。
ベッドから出て冷たい黒いタイルに素足で歩く。
この家は黒で統一されてることに歩きながら気付く。
「朔夜?」
彼は返事しないで本から顔を上げた。
「どうした?」
落ち着いた深い、声。
「怖い夢見たの」
こんなこと言ったらまた冷やかされるなって思いながら言う
朔夜はゆっくり近付いて来てあたしの頭をゆっくりと撫でる。


あたしは何も持ってない
記憶も服もお金も地位もあんたとの思い出も、絆も、自分を守るすべも
本当に何もない


けど



優しくて意地悪なあんたならこの先振り回されてもいいって思ったんだ



例え彼女がいても。

朔夜は彼女持ちです。
めっさラブラブです笑
何故高校生が一人暮らしかは後々話に出てくると思うんで
私は美姫みたいな子はぶっちゃけ
好きじゃないです。(キッパリ
でわでわ一文字シリーズ(仮名)をどうか温かい目で見守ってください