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ひまわりが太陽に恋をした



青い空、白い雲、蝉の声。
じみじみした空気を追い出す涼しい風
「おはよう(よう) ちゃん」
「ああ。おはよう(あおい)
柔らかな笑顔、穏やかな空気、空に向って咲くひまわりの花。
「ひまわり綺麗に咲いたね」
「そうだな。さ、行くか」
「え?行くってどこに?」 にっこりと陽ちゃんは笑ってあたしの頭をポンポンと撫でる。
優しい陽ちゃんの香り。
「秘密基地、行くんだろ?」
あたしが驚いている間に陽ちゃんは自転車を取りに行く。
もうバイクも運転できるのにあたしを乗せるから自転車を選ぶ陽ちゃん。
「ねぇ、何でわかったの?」
駆け寄りながら聞くと人差し指で空を指した。
「いい天気だから。」

「ねぇ。葵は好きな人いないの?」
「そーいえば葵の恋話って聞ーたことないよね」
「あってか葵、2年の永倉(ながくら)永倉先輩と仲いいよねー!!」
「えマジでマジで!?かっこいいの?その先輩」
百合(ゆり)永倉先輩知らんの!?超かっこいいし優しいしいー人だよ!」
「で、どうなの?葵ちゃん」
4人の友達に囲まれながらキャラメルフラペチーノを飲む。
「あたしと陽ちゃん?」
うん、と4人が口々に言う
「ただの幼馴染だよ」
苦笑しながら答える。
「えええ!それにしては超仲よしじゃん!!
こないだチャリで2ケツしてっとこ見たよ!!」
「陽ちゃんはね誰にでもそうなの。誰にでも優しくて、親切なの。
あたしが特別ってわけじゃなくてみんなにそうなの。
あのね小さい頃からいつも一緒で、
いつも困った時とか悩んでる時に優しくしてくれて
いつも楽しい時とか嬉しい時には隣にいてくれてて
あたし…陽ちゃんの事好きなの。ずっと前から。
けどねー中学の時、陽ちゃんが男の子にも女の子にも
もちろんあたしにも同じように一緒にいて優しくて
隣にいてあげてたってことにやっと気付いたの。
気付いたのにあたしまだ陽ちゃんのこと好きなんだ。しつこいよね。」
何時の間にか百合があたしの手を握ってくれてた。
仲間がいてくれて幸せだなってこんな時に気付く。
多分これも陽ちゃんの御蔭かもしれない。
「葵…なんかごめんね言いたくない事じゃなかった?」
「ううん。なんかすっきりした気がする。ありがと」
少しの沈黙があたし達を包んで
亮子(りょうこ)があたしの目をまっすぐに見て言った。
「ねぇ葵。永倉先輩に告ってみたら?
来年先輩受験生だしなかなか会えなくなって
大学生になったらもっと会えなくなると思う。
後悔したくないんだったら告ってみたらどう?
もちろん葵が決める事なんだけどさ
あたしはそれもいいんじゃないかなって思う。」
ゆっくりとした口調で亮子は言って笑った。

「・・葵?」
「あれ…陽ちゃんだー。」
今日は雨が降ってて家で勉強するのも憂鬱だから
あたしは1人で図書館に来てた。
「陽ちゃんまだ2年生なのにもう受験勉強してるの?」
陽ちゃんが持ってる本を見ながら言った。
「ああ。国立目指してるからな。葵はどうした?」
「あたし?あたしは勉強するつもりなんだけど多分本読んじゃうと思う。
じゃぁ勉強の邪魔になっちゃうから行くね。」
陽ちゃんは頷いて勉強を続ける。
「…国立か。」
亮子が昨日言ってたことが頭に響く。
けど邪魔するわけにはいかない。
ここであたしが告白したら陽ちゃん重荷に感じる。
自分のわがままを突き通すわけには行かなくて
「もう、諦めようかな。」
ふう、とため息を吐く。
自分がこんなに弱いなんて今まで気付かなかった。
やなかんじ。自分じゃないみたい。
勉強する予定だったのに前から読みたかった本借りて
水玉模様の傘差しながら足音をたてながら歩く。ぴちゃん、ぴちゃん。

「ごめん今忙しかったか?」
昨日の雨なんて忘れたみたいに綺麗な空。
今は6時。真赤な夕焼けの色が空に写ってる。
「ううん大丈夫だよ全然平気」
「そんならよかった。ちょっと話したい事があるんだけど今空いてるか?」
陽ちゃんと一緒に近所にある小さい頃一緒に
日が暮れるまで遊んだ公園のブランコに乗る。
きぃ、きぃ、きぃ響くブランコの音、話があるのに何も言わない陽ちゃん。
「葵。」
陽ちゃんがまっすぐあたしを見てたから目で返事する。
「俺、週末上京するよ。
あっちの姉妹校行って一年半みっちり勉強することにした。」
赤い空、青いブランコ、白い雲、橙色の滑り台、緑の葉っぱ、茶色い幹。
あたしが今見える色全部絵の具にして混ぜたら
今のあたしの心の色に似てると思う。
自分は決して変わらないで他の色を引き込む黒に。
「そっ…そっか。東京の方がいい塾とかあるもんね!
がんばって陽ちゃんっがんばって獣医さんになって
たくさんの動物治してあげてよー。
あたし陽ちゃんならできるって信じてるから!!
あたしも陽ちゃんの事がんばって応援するね!!」
陽ちゃんは少しびっくりした顔をしてから
あたしの大好きな笑顔を見せてくれた。
「正直俺、葵がこれ知った時泣くと思ってた。
ちっこい頃からずっと一緒だったし、
それに…俺はそんなことないって思ってるけど
友達が、葵が俺のこと好きだとか言ってたから。
まさか葵、俺なんかのこと好きじゃないよな?」
「あっ…あったりまえじゃん!!
あたし小さい頃陽ちゃんの事好きだったけどもう今は違うよ!!」
「あたし、もう陽ちゃんのこと諦める。」
「え…どうしたの葵。」
今日もこの間の4人で出かけてて今は3時。
「陽ちゃんね上京するの。東京にある姉妹校に転校するんだって。
こないだねあたしギリシャ神話を借りたの。
その本の中に書いてあったひまわりの話、とっても素敵だから教えたげる
ひまわりはね悲恋の花なんだって
あと元は水のニンフ、妖精みたいな感じだったんだって。
水のニンフの彼女は太陽神に恋をしてて空は高くて届かないから
せめてもとずっと太陽のことを見続けてる。
彼の事が愛しくて涙で顔がぬれても
はずかしがらずに顔を上げて背筋をピンと伸ばして
立ち続けた彼女はある日、向日葵(ひまわり)になった。
ひまわりなあたしと太陽な陽ちゃん
この気持ちが実る事なんてないんだよ。
あたしもういいや見てるだけなんて苦しいもん。」
「葵。諦めるのは葵が決めた事だからいいんだけどさ
あんたと永倉先輩はそんな神話なんかに決められちゃっていいの?
神話の太陽にはひまわりの思いが届かなかったかもしれないけどさ
永倉先輩には届くかもしれないのに
その可能性を自分で踏み潰しちゃっていいの?
好きって言われたら嬉しいに決まってるでしょ?」

「陽ちゃん荷物少ないね」
「ああ。もうあっちに送ったんだ。」
あともう少し。
あと10分で陽ちゃんは田舎町から抜け出して上京する。
「東京楽しみ?」
「まぁな。いろんな物あるし。けどすぐ帰ってくるから。」
心配そうにあたしを見て頭を撫でる
あたしは苦笑する。やっぱり陽ちゃんは陽ちゃんだ。
「大丈夫だって陽ちゃん心配しないで。…大丈夫だから」
何も喋らないでもぽかぽかするのは陽気のせいか
それともとなりに陽ちゃんがいるからかな
電車が、来た。
「じゃぁな葵元気にしてろよ。」
ポン、と頭を撫でる。
ドアに陽ちゃんは足を踏み込んで電車に乗る。
「陽ちゃん。」
「どうした?」
陽ちゃんがあたしの顔を覗き込む。
「こないださあたし嘘吐いたの。あたし、陽ちゃんの事好き。」
ドアが閉まる。
陽ちゃんがあたしを見ながら車内を走る。
あたしもつられて陽ちゃんを見ながらホームを走る。
お互い走る所がなくなって手を振り合った。
ブルルルルケータイがポケットで鳴る。
相手は見なくてもわかるのはたぶんさっき一緒に走ったからだね。
あたしは最高の笑顔で電話に出る。
太陽がひまわりに恋をした。