Waite!!
「待ちなさいよ!!」
綾乃様はボディガードの男が来てから
あたしにその男のお話しかしなくなったの
ずるいわ!あたしのほうが綾乃様のこと大好きなのに。
「何?」
「あんたは綾乃様のなんなの!?」
そいつは咥えていたタバコを左手に持つ。
「嬢ちゃん」
あたしは彼の言葉を切った。
「嬢ちゃんじゃなくて槙新菜」
「そら失礼。槙はあいつの知り合いなわけ?」
「あいつってあんた何様なの!?
綾乃様に失礼でしょう?!!」
「まぁいいじゃねぇか」
「よくないっっ」
はぁー。と溜息と一緒に煙を吐く。
「そんな噛み付いてくんな。疲れんぞ。
まーともかくお前は姫の知り合いなわけ?」
「そーよ。あたしは綾乃様のお話し相手。あんたは?」
「ボディガード」
「そうじゃなくて。」
「あー・・・話し相手とか?」
あたしは唇を噛んでキッと彼を睨む
「あ?なんだよ」
なんなのなんなのなんなの!!
最低じゃない!!口は悪いしタバコは吸うし!!
なんで姫様はあいつのことばかりお話しするの!?
次の日になってもあたしは相変わらずぷんぷんしてて
この間見つけた銃の練習所で
バァン、バァンと銃をぶっ放す。
「あーもうっあいつのせいで気が散って的に当たらないじゃない!!」
八つ当たりをしながら何度も何度も打つ。
「おいまさかお前あいつって俺のことじゃねぇよな」
振り向くとまさに奴がいた。
「なんであんたがここにいんの!?」
「ここ俺の練習場所だから。」
タバコに火をつける。
「おら行くぞ。」
「どこに?」
「いいから付いて来いよ」
・・・・誘拐されんじゃないかしら
「姫様はね、菫の花がお好きなのよ。」
「へえ。あいつらしいな。」
タバコを咥えたまま微笑む
「ねぇあんたの名前なんだっけ?」
「俺?九鬼隼人。」
びゅうと風が吹く
「隼人は」
「悪いけど名字で呼んでくんない?名前で呼ばれんの嫌。」
「ごめん・・・」
一事冷たく言われただけであたしの心はパニくる
「おい・・・なんで銃なんて持ってんだ?」
「強くなりたいから」
「なんで?」
「護る為。」
あたし達は芝生に寝転がる
「あたし九鬼になりたいな・・・」
手で顔を隠して掠れた声で言う。
「俺に?」
「うん。あたしもあんたみたいに綾乃様を護りたい・・・」
芝生の青い匂いと九鬼の煙草の匂いが香る。
煙草なんて嫌いなのにどうしてだろこの匂いはすごく落ち着く
「槙・・お前ほんとあいつのこと好きだな。」
口から零れる優しい笑顔
「うん・・・・。」
きゅぅと鼻が痛くなる。
「大好きなの・・・」
視界が歪んで涙がこぼれる
「そうか。まぁ・・・ゆっくり泣けよ。」
「泣いてない!!」
「泣いてる泣いてる。」
「泣いてないからっっ」
あたしは腕で目をこする
「わかったわかったあっち向いててやっから我慢すんなよ。」
「泣いてなんて・・・」
声が掠れる。九鬼が煙草に火をつけたのがわかる
「言っとくけど俺はお前の場所取ったつもりなんてねぇからな。」
「ん・・・。」
「女なんだから銃なんて持つなよ。」
「なんでよ。」
「危ないだろ?」
この言葉にむっときた
「女だからってなめないでよ!!
もう行くわ!あんたなんかに話したあたしが馬鹿だった」
だっと走ると九鬼が追いかけてくる。
「なんで追いかけてくんの!?」
後ろを向かずに走ったまま聞く
「んなの決まってんだろ?」
九鬼の足音が、呼吸がすぐ近くに聞こえる。
あーもうだめだわ。そう思ったとき捕まった。
「何よ。」
「違うから。俺が言ってた意味と。」
「はぁ?」
思わず間の抜けた声を出す
「だから、俺はお前をなめてねぇよ。
あいつを護りたいってのはいいことだと思う」
「じゃぁなんで銃持つなって」
「まーいーから聞いてろよ。」
溜息を吐いた
「“護る”っつうのは武器を持つことじゃねぇだろ。
武器は弱い奴が持ったら護る奴さえも簡単に傷つけるもんだし
あれは人を殺すもんだ。護るもんじゃない。
俺が死んだらまぁ仕方ねぇよな。そういう仕事だ。
あいつもちゃんと頭では分かってる。けどお前は違うだろ?」
「あんたが殺されたって姫様はお泣きになると思うけど?」
目が宙を見た。小さく笑む。
「あぁそうだな。けどそれは俺が背負わないといけないもんだ」
ゆっくりと煙を吐く。
「だからお前そんな小せぇ背中でそんなん背負おうとするなよ」
あたしの心臓は破壊寸前だ。
「ねぇ九鬼あたし変な格好してない!?大丈夫??」
「あーはいはい。大丈夫だって何回目だよお前。」
あきれた顔して九鬼がこっちを見る
だって今日は姫様とあたしと九鬼3人での初めてのお茶会だから
めいっぱいおめかししたくなる。
「ともかく行くぞ。」
少し廊下を歩いて声をかけてから開きをあける。
「隼人、新菜さぁどうぞ入って?」
何で?今九鬼のこと隼人って。名前で呼ばれるの嫌いじゃなかったの?
彼を見上げればその瞳はいつもより優しかった。
「新菜?」
「ご・・・ごめんなさい。」
ゆっくりと出されたお茶を飲む。
「これをどうぞ。」
彼の手には菫の花があった。
「すごく綺麗ありがとう隼人」
「槙からあんたがその花好きだって聞いたんで」
少し顔を九鬼は赤らめる
「新菜が?ありがとう」
幸せそうな笑顔を私に向ける。
「新菜?」
「すいません・・・
ちょっと風邪気味なんで今日は失礼させていただきます」
「ごめんなさい。」
太陽はまだ青い空を泳いでいるのに
綾乃様の瞳が映しているものは闇だった
「あなたに私は酷い事をしてしまったわ。」
「綾乃様・・?」
悲しげに笑む。
「新菜」
「はい。」
「お大事に。無理をさせてごめんなさいね」
ゆっくりと笑った。
「ねぇ隼人・・・」
あんな・・・あんな風に笑う二人を見たことがなくて
「大丈夫か?」
辛いというより自分自身が情けなかった。
「うん・・・。」
九鬼が笑うのは私を見てじゃなくて
「あのね・・・ひとつだけ我がまま聞いてくれるかしら。」
会話に出てくる綾乃様を思って笑ってたんだ。
「いいですよ」
今やっと気づく。
「あのね」
泣いてない泣いてないないてなんかない。
「ちょっとだけでいいの。側にいてくれる?」
手の甲で目を擦る
「何言ってんの今更。すこしじゃなくてずっといてやるよ。」
泣いてなんか・・・ない。
あとがき。
新菜ちゃん気ぃ強いのが好き。
友達になるなら綾乃より新菜かなぁ笑
年齢は不詳ってことで新菜ちゃん
隼人の名字九鬼は九鬼水軍「九鬼嘉隆」からです。
九鬼ってなんかよくない?
九つの鬼。