風切羽



あたしにとって(らん)風切羽(かざきりばね)だ。
小さいころからいつも一緒ってわけじゃないし
出会ったのは今年の春。つい、最近だ。
「ほのか。帰り送ってくから後ろ乗ってー」
キキッとあたしの近くに自転車を止める。
「あれ今日小春(こはる)ちゃんおらんの?」
小春ちゃんていうのは蘭の幼馴染み。
「小春?なんであいつがでてくんの。」
「んーなんとなく。だって仲いいじゃん。」
「ばーか。あんなん目じゃねぇよ。」
風があたしの髪をなでる。
「あんなんってかわいーじゃん小春ちゃん。
あっ何蘭好きな子でもいるの??」
自転車がいきなり止まってあたしは前につんのめる。
蘭の家の洗剤の匂いがふわりと香る。
「どーしたの蘭忘れ物?」
「あ、悪い悪い。お前があまりにもあほなこと言―から。」
また自転車をこぎ始める。
「お前は?」
少し経ってからいきなり蘭が聞いてきた。
「え?」
「お前は好きな奴いんの?」
「あたし?まっさか。あたしが恋する乙女に見えんのあんたは。」
あははと笑いながら答える。
「まあよく考えりゃよーくわかる質問だったな」
呆れながら笑う。
夕焼けが眩しくてあたしは目を細める。

「いー天気だね。あっけど少し曇ってたほうがよかったかも。」
「はぁ?何で。晴れてたほうがいいじゃん。」
「知らないの?雲が夕日にあたって超綺麗なんだよ」
今度は、ゆっくり蘭は自転車を止める。
「お兄さんお兄さん。ここまだ河原ですよー。」
「今から用事とかねぇだろ?」
「あ、うんないけど。」
じゃあいいじゃんって言って先に河原に寝転がる。
あたしも釣られてすぐ隣に座ってシャボン玉を吹く
ふわふわ、ふわふわ風に揺られて色んなところに飛んで、消える。
「気持ちいーねー。」
ああ、蘭はこう言うだけでもう何も言わなくなった。
蘭は黙って
優しい風が吹いて
あたしはしゃぼん玉を飛ばす。
「早く夏休みにならないかな。
これから期末があるかと思うと憂鬱。やだなぁ」
「じゃー今から夏の予定立てとくか。」
はぁ?あたしは間抜けな声を出した。
「お前の場合そのほうがやる気がでんだろ?」
ふ、とあたしは笑いはじめだんだんと大きな声で笑う
「お前何がそんなにおかしいんだよ」
わけがわからないという顔をしながら蘭も釣られて笑う。
「やっぱあんたはあたしの風切羽だわ。」
「は?」
蘭はますますわけがわからないという顔をする。
しゃぼん玉を飛ばしてからあたしは説明する。
「鳥はね、風切羽っていう羽がないと飛べないの。
あたしにとってあんたはそんな感じ。蘭がいないとテンション上がらんもん
これからもずっと親友でおってね、蘭っ」
あははと声を上げて笑いながらあたしがこう言うと
蘭はたぶんこいつの人生の中で一番大きなため息を吐いた
「え、なんであんたそこでため息つくの」
これからこの鈍感姫が恋をするのはまたあとのお話。